Dialogue Archives_001
「人生を変えるのに、雄弁な言葉はいらなかったんです。必要だったのは、相手の言葉をどう受け取るかという『器』の方でした」
東京・某所のスタジオ。収録のマイクを前に、少しはにかみながらも、力強い眼差しでそう語るのは、株式会社Le beau monde(ル・ボーモンド)代表取締役、立石麻由子だ。
彼女は現在、企業研修講師やコンサルタントとして、数多くの組織に「心理的安全性」を導入している。しかし、そのキャリアの原点は、意外にも「対人関係への恐怖」と「何も売れない営業マン時代」にあったという。
なぜ、人は変われるのか。そして、なぜ今、彼女はマイクを握り、他者の「生き様」を聴くのか。
ポッドキャスト『GIFT』のホストであり、本番組の企画者でもある立石麻由子の「人生の分岐点」と、その根底に流れる哲学を、Dialogue Archives編集部が紐解く。

1. 独立への焦燥と、売れない日々の「孤独」
時計の針を10年以上前に戻そう。 24歳。世間ではまだ「新人」と呼ばれる年齢で、立石は独立の道を選んだ。
「当時は、とにかく『生きる力』が欲しかったんです。会社という看板がなくなった時、自分には何が残るんだろう? そんな漠然とした不安と焦りが、私を突き動かしていました」
若くして経営者となった彼女を待っていたのは、華々しい成功ストーリーではない。待っていたのは、圧倒的な「孤独」と「実績のなさ」だった。
営業に出ても、モノが売れない。 商談の席についても、相手の反応が怖くて、うまく言葉が出てこない。 「対人関係に自信がない」というコンプレックスは、独立したことでより鮮明に、彼女の心を蝕んでいった。
「あの頃は、どうすれば上手に話せるか、どうすれば相手を説得できるかばかり考えていました。つまり、矢印が全部『自分』に向いていたんです。自分が傷つきたくない、自分が認められたい。そんな人間が、お客様の本当の課題なんて見えるはずがありませんよね」

2. 転機:「話し方」を捨て、「受け取り方」を選んだ日
暗闇の中でもがき続けていた彼女に、転機が訪れる。 それは、ある心理学の学びとの出会い、そして自身のコミュニケーションに対する「根本的な勘違い」への気づきだった。
「ずっと『話し方(Output)』を磨こうとしていたんです。でも、人間関係の鍵を握っていたのは『受け取り方(Input)』でした」
相手がなぜその言葉を発したのか。 怒っているように見える相手は、実は困っているのではないか。 無口な相手は、拒絶しているのではなく、思考している最中なのではないか。
相手の言葉や態度を、自分のフィルター(思い込み)で歪めずに、そのまま「受容」する。 それを実践し始めた時、世界が変わった。
「不思議なことに、私が相手を『受容』すると、相手も私を受け入れてくれるようになったんです。敵だと思っていた目の前の人が、味方に変わる瞬間でした」
何も売れない営業マンだった彼女の成績は、V字回復を見せる。 プライベートの人間関係も劇的に改善した。 「人と関わることを諦めない」。その信念は、この時の成功体験から生まれたものだ。

3. 独自のメソッド「3タイプ別コミュニケーション」の確立
自身の経験を、再現性のある理論に落とし込みたい。 そう考えた立石は、心理学、統計学、アドラー心理学など、多岐にわたる学問を貪るように学んだ。
そこで生まれたのが、現在、株式会社Le beau mondeの主幹事業となっている**「3タイプ別コミュニケーション診断」**だ。
「人はそれぞれ、心地よいと感じるコミュニケーションの『入り口』が違います。結論から話してほしい人、感情に共感してほしい人、全体の背景を知りたい人。その違いを知らずに自分のやり方を押し付けるから、摩擦(対話不全)が起きるんです」
彼女のメソッドは、単なる「タイプ分け占い」ではない。 相手を知り、自分を知り、その間にある「橋の架け方」を学ぶための羅針盤だ。
このメソッドを携え、彼女は多くの企業研修に登壇。「心理的安全性」という言葉がバズワードになる以前から、現場レベルでの「話しやすい空気づくり」を提唱し続けてきた。
独立から11年。法人化して3期目。 彼女の周りには今、多くの経営者やリーダーが集まる。かつて「対人関係が苦手」だった彼女は、今や「コミュニケーションの専門家」として、組織の課題を鮮やかに解決している。

4. なぜ今、ポッドキャスト『GIFT』なのか?
そして2024年。 経営者として脂が乗ってきたこのタイミングで、立石は新たな挑戦を始めた。 それが、ポッドキャスト番組『GIFT』だ。
なぜ、本業がある中で、あえて手間のかかる音声メディアを選んだのか?
「経営者の『孤独』と『本音』を、資産として残したかったんです」
自身も経営者として11年歩んできたからこそ、わかる痛みがある。 チームメンバーには見せられない弱音。眠れない夜の決断。成功の裏に隠された、泥臭い葛藤。
「世の中に出回っているインタビューは、どうしても『成功法則』や『キラキラした結果』にフォーカスされがちです。でも、これから何かに挑戦しようとする人にとって本当に必要なのは、その人が『どん底で何を考えたか』というリアルな思考のプロセスだと思うんです」
番組タイトルの『GIFT』には、二つの意味が込められている。
一つは、ゲストが語る言葉そのものが、リスナーへの「贈り物(GIFT)」になること。 そしてもう一つは、ゲスト自身が自分の人生を振り返り、言語化することで、自分自身の価値を再発見する「自分へのGIFT」になること。
「私の役割は、インタビュアーというよりも『受容の器』になることです。否定せず、遮らず、ただ深く聴く。そうすることで、ゲストの方ご自身も忘れていたような熱い想いや、言葉にならなかった感情が溢れ出してくる。その瞬間が、たまらなく好きなんです」

5. 編集後記:未来への種蒔き
インタビューの最後、彼女はこれからのビジョンについてこう語った。
「この番組を、人生の図書館にしたいんです。迷った時にここに来れば、誰かの生き様という『地図』が見つかるような場所。そして、出演してくださったゲストの方にとっても、ここでの対話が、数年後に読み返した時に『あの時の自分、頑張ってたな』と思えるような、タイムカプセルのような存在になれたら嬉しいですね」
「話し方」よりも「受け取り方」。 その哲学は、マイクを通じた対話の中でも貫かれている。
立石麻由子というフィルターを通して語られるゲストたちの物語は、決して他人事ではない。 それは、明日を生きる私たちへの、静かで、しかし熱いエールなのだ。
(文:Dialogue Archives 編集部)

Profile
立石 麻由子(Mayuko Tateishi) 株式会社Le beau monde 代表取締役。 24歳で独立後、自身の対人関係の悩みから「言葉の受け取り方」の重要性に着目。心理学・統計学をベースにしたオリジナルメソッド「3タイプ別コミュニケーション診断」を開発する。現在は「心理的安全性」をテーマに、企業研修やコンサルティングを行う傍ら、ポッドキャスト『GIFT』のホストとして、経営者・挑戦者のリアルな生き様を発信している。
- Company HP: 株式会社 Le beau monde
- Podcast: 『GIFT』 on Spotify

